「外科」と「形成外科」、どちらも「手術」をするお医者さんというイメージがあるかもしれませんが、実はそれぞれ専門とする分野や目的が異なります。この二つの「外科」の違いを理解することは、いざという時に自分や家族に合った医療を選ぶ上で、 とても大切 なことなのです。

「外科」って、どんなお医者さん?

まず、「外科」という言葉を聞いて、皆さんが一般的に思い浮かべるのは、病気や怪我を治すために手術をするお医者さんではないでしょうか。例えば、お腹が痛くて病院に行ったら「外科」で診てもらい、盲腸の手術をしたり、骨折したら「外科」で骨を固定する手術をしたり。まさに、体の不調や損傷を、メスを使って直接的に治療するのが外科の主な役割です。

外科では、非常に幅広い範囲の病気や怪我に対応します。消化器系(胃や腸など)、循環器系(心臓や血管など)、呼吸器系(肺など)、さらには骨や筋肉といった運動器系まで、様々な臓器や組織の病気に対して、手術という手段で治療を行います。

外科の治療は、患者さんの生命を救ったり、病気の進行を止めたり、機能を取り戻したりすることを最優先とします。そのため、緊急手術も多く、迅速かつ的確な判断が求められる、まさに「命を預かる」専門分野と言えるでしょう。外科の診療科目は多岐にわたり、例えば以下のようなものがあります。

  • 消化器外科
  • 心臓血管外科
  • 呼吸器外科
  • 脳神経外科
  • 整形外科

「形成外科」って、どんなお医者さん?

一方、「形成外科」は、少しイメージが異なるかもしれません。「形成」という言葉から、何かを作り出す、形を整えるといったイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。まさにその通りで、形成外科は、体の表面や機能に障害がある場合に、それらを改善し、より良い状態に「形成」していくことを目的とした診療科です。

形成外科が扱うのは、生まれつきの奇形(口唇裂や小耳症など)の治療や、事故や病気による外傷(火傷、顔面の骨折、皮膚の欠損など)の修復、さらにはがん治療後の再建手術など、多岐にわたります。単に病気を治すだけでなく、見た目の美しさや、失われた体の機能を回復させることも重視されるのが特徴です。

形成外科では、皮膚や皮下組織、骨、軟骨など、体の表面に近い部分の治療が中心となります。そのため、繊細な技術と美的センスが求められることも少なくありません。患者さんのQOL(生活の質)を向上させるという観点も、形成外科の大きな特徴と言えるでしょう。

形成外科の代表的な治療例としては、以下のようなものが挙げられます。

治療内容 対象
先天性奇形の手術 口唇裂、眼瞼下垂、耳の奇形など
外傷の修復 火傷、顔面骨骨折、皮膚の損傷など
再建手術 乳房再建、皮弁移植など

「外科」と「形成外科」の主な違い

「外科」と「形成外科」の最も分かりやすい違いは、その「目的」にあります。外科は、病気や怪我そのものを治療し、生命の維持や病状の改善を最優先とします。一方、形成外科は、治療後の機能回復はもちろんのこと、見た目の改善や、より自然な形を取り戻すことにも重点を置きます。

例えば、交通事故で顔に大きな傷を負ってしまった場合を考えてみましょう。まず、「外科」(例えば顔面外科や脳神経外科)では、骨折した骨を元に戻したり、出血を止めたりと、緊急で生命に関わる処置を行います。その後、傷跡をきれいに治し、顔の機能を回復させるために「形成外科」の出番となるのです。

このように、両者は互いに連携しながら、患者さんの回復をサポートしています。それぞれの得意分野を理解することで、より適切な治療を受けることができます。

「外科」の代表的な疾患

「外科」が扱う疾患は本当に様々ですが、代表的なものをいくつか挙げてみましょう。まず、お腹の病気でよく聞く「虫垂炎(盲腸)」は、消化器外科の代表的な疾患です。また、「胃がん」や「大腸がん」の切除手術も消化器外科が行います。

心臓や血管の病気では、「虚血性心疾患」や「大動脈瘤」などの手術を心臓血管外科が担当します。呼吸器系では、「肺がん」や「気胸」などの治療を呼吸器外科が行います。さらに、骨折や関節の病気は整形外科が、脳腫瘍や脳卒中は脳神経外科が、それぞれ専門的に扱います。

これらの疾患は、放置すると命に関わったり、身体の機能が大きく損なわれたりする可能性が高いため、迅速かつ専門的な外科的処置が不可欠です。

「形成外科」の代表的な疾患

「形成外科」は、先ほども触れましたが、生まれつきの体に不自由があったり、怪我や病気で体に傷ができたりした場合に、その機能や見た目を回復させることを得意としています。例えば、「口唇裂・口蓋裂」は、生まれつき上唇や口の中の天井に割れ目がある状態で、これを手術で閉じるのが形成外科の代表的な治療の一つです。

また、「眼瞼下垂(がんけんかすい)」といって、まぶたが下がって物が見えにくくなる状態も、手術で改善させることができます。火傷の治療も形成外科の重要な分野で、傷跡が残りにくいように、また機能が失われないように、丁寧に治療を行います。

がん治療後の「乳房再建」も、近年注目されている形成外科の分野です。がんによって失われた乳房を、自分の体の他の部分の組織などを使って、できるだけ自然な形に再建します。

「外科」と「形成外科」の治療アプローチの違い

「外科」の治療アプローチは、病変そのものを取り除くことや、損傷した部分を修復することに重点が置かれます。例えば、がんを切除する際には、がん細胞をできるだけ残さずに、周囲の正常な組織もある程度含めて切除することがあります。これは、病気を根治させることを最優先にするためです。

一方、「形成外科」の治療アプローチは、より繊細で、機能と審美性の両方を考慮します。例えば、顔の傷を縫合する際には、傷跡が目立たないように、皮膚のしわの方向に沿って丁寧に縫合したり、組織を移植したりします。また、失われた指を再建する際にも、見た目だけでなく、物をつかむといった機能の回復を目指します。

それぞれの専門性を活かしたアプローチにより、患者さんの回復を最大限にサポートしています。

「外科」と「形成外科」の連携

「外科」と「形成外科」は、それぞれ得意とする分野が異なりますが、患者さんの治療においては、しばしば連携して行われます。例えば、お腹の大きな腫瘍を「外科」が切除した後、お腹の皮膚や筋肉の欠損が大きかった場合に、「形成外科」がそれを補うための皮弁移植などを行うことがあります。

また、外傷で手足の骨が複雑に折れてしまった場合、「整形外科」(これも外科の一種です)で骨を固定した後、皮膚の損傷がひどい場合には、「形成外科」が皮膚移植などを行って、最終的な機能回復を目指すこともあります。このように、両科が協力することで、より質の高い医療を提供することが可能になります。

連携がスムーズに行われることは、患者さんにとっても、治療の成果がより良くなるというメリットがあります。

「外科」と「形成外科」の適応疾患の例

具体的に、どのような疾患がそれぞれの診療科で扱われるのか、いくつか例を挙げてみましょう。

  • 外科の適応疾患例:
    1. 胃がん、大腸がん、食道がんなどの消化器がん
    2. 虫垂炎、胆石症、ヘルニアなどの腹部疾患
    3. 心臓弁膜症、動脈瘤などの循環器疾患
    4. 肺がん、気胸などの呼吸器疾患
    5. 骨折、椎間板ヘルニアなどの整形外科疾患
  • 形成外科の適応疾患例:
    1. 口唇裂・口蓋裂
    2. 眼瞼下垂、鼻の変形
    3. 火傷、外傷による皮膚・軟部組織の損傷
    4. がん治療後の再建(乳房再建、顔面再建など)
    5. 褥瘡(床ずれ)の治療

このように、疾患によってどちらの科を受診すべきかが異なりますが、迷った場合はまず総合病院の受付や、かかりつけ医に相談してみるのが良いでしょう。

「外科」と「形成外科」は、どちらも手術を伴う医療ですが、その目的や得意とする分野、アプローチが異なります。外科は病気や怪我そのものの治療を、形成外科は機能回復や見た目の改善を重視すると言えます。しかし、両者はしばしば連携し、患者さんのより良い回復のために協力しています。この違いを理解することで、ご自身の病気や怪我に適した医療機関や診療科を選ぶ参考にしていただければ幸いです。

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